【専門家解説】高齢猫の健康診断:血圧・眼圧が示す愛猫の隠れたサイン
高齢猫の健康診断で見逃せない血圧・眼圧測定の重要性
愛猫が健やかな高齢期を過ごすためには、定期的な健康診断が不可欠です。一般的な血液検査や尿検査、画像診断に加え、高齢猫において特にその重要性が増す検査項目があります。それが、血圧測定と眼圧測定です。これらの検査は、猫自身が痛みや不快感を伝えにくい、あるいは症状が進行するまで気づきにくい、しかしQOL(生活の質)に大きく関わる疾患の早期発見につながります。
高齢期を迎えた愛猫の健康診断では、これらの検査が推奨されるケースが多くなります。なぜこれらの検査が重要なのか、どのようなことがわかるのか、そして検査結果をどのように日々のケアに活かすべきかについて解説します。
高齢猫に多い高血圧と眼疾患のリスク
高齢猫では、特定の疾患に伴って高血圧を発症する確率が高まります。特に、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症といった、高齢猫に頻繁に見られる疾患と関連が深いです。猫の高血圧は、ヒトと同様にサイレントキラー(静かなる殺人者)と呼ばれることがあります。目立った症状が現れにくく、気づいた時には網膜剥離による突然の失明や、心臓、脳、腎臓への重篤なダメージを引き起こしているケースが見られます。
また、高齢猫では白内障や緑内障、ぶどう膜炎といった眼疾患も増加傾向にあります。特に緑内障は、眼圧が上昇することで視神経が障害され、進行性の視力低下や失明を引き起こす可能性のある疾患です。痛みや不快感をうまく表現できない猫の場合、病気が進行するまで飼い主様が気づきにくいことがあります。
これらの理由から、健康診断で血圧と眼圧を定期的にチェックすることは、愛猫の隠れた病気や進行中のリスクを発見するために極めて重要なのです。
健康診断における血圧測定の詳細
猫の血圧測定は、主に非観血式血圧計(カフを巻いて行う方法)を用いて行われます。犬やヒトと同様に、肢や尾の付け根にカフを巻き、血圧を測定します。
- 測定方法: 一般的には、前肢や後肢、または尾の付け根にカフを巻き、自動的に膨張・収縮させて血圧を計測します。猫にストレスを与えないよう、落ち着いた環境で行うことが重要です。複数回測定し、平均値や安定した値を使用します。
- 測定でわかること: 収縮期血圧と拡張期血圧が測定されます。猫の場合、一般的に収縮期血圧が150mmHgを超える場合に高血圧の可能性が疑われます。ただし、動物病院での測定時は緊張によって一時的に血圧が上昇することもあります(白衣高血圧)。
- 異常値の場合に考えられること: 高血圧が確認された場合、基礎疾患として慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、心臓病、糖尿病、原発性高血圧などが考えられます。高血圧の程度や基礎疾患の有無に応じて、さらに詳しい検査や治療方針が検討されます。
健康診断における眼圧測定の詳細
猫の眼圧測定は、眼の内部にかかる圧力を測る検査です。眼圧計(トノペンなど)を用いて行われます。
- 測定方法: 点眼麻酔薬を数滴使用し、角膜の表面に眼圧計の先端を軽く接触させて測定します。痛みは伴いませんが、猫によってはじっとしていることが苦手な場合もあります。複数回測定し、安定した値を使用します。
- 測定でわかること: 眼球内部の圧力(眼圧)が測定されます。猫の正常な眼圧は一般的に15~25mmHg程度とされていますが、個体差や測定方法によって基準値は異なる場合があります。
- 異常値の場合に考えられること: 眼圧が異常に高い場合は緑内障、低い場合はぶどう膜炎などの眼疾患や全身性の疾患が考えられます。特に高い場合は、視力温存のために緊急性の高い処置が必要となることもあります。
検査結果を読み解き、獣医師とのコミュニケーションに活かす
血圧や眼圧の測定値は、単独で評価するのではなく、他の検査項目(血液検査、尿検査など)や身体検査の結果、さらには愛猫の日常の様子と合わせて総合的に判断する必要があります。
- 正常値でも油断しない: たとえ測定値が基準範囲内であっても、加齢に伴うリスクは存在します。前回の測定値からのわずかな変化や、他の検査項目との関連性など、経年的な変化を獣医師と一緒に確認することが重要です。
- 異常値を指摘されたら: 異常値が確認された場合は、原因究明のための追加検査(例:腎機能の詳細な評価、甲状腺ホルモン値の測定、眼科専門医への紹介など)が推奨されることがあります。獣医師から提示される選択肢について十分に説明を受け、納得いくまで質問しましょう。
- 日常の観察を伝える: 家庭での愛猫の様子(飲水量、尿量、食欲、体重変化、活動レベル、目の見え方など)は、診断や治療方針を立てる上で非常に貴重な情報です。健康診断時には、気になる変化を具体的に獣医師に伝えられるよう準備しておきましょう。
検査結果を踏まえた日常的なケアと改善策
血圧や眼圧に異常が見つかった場合、あるいは関連疾患が診断された場合、獣医師からのアドバイスに基づいた自宅でのケアが非常に重要になります。
- 食事管理: 高血圧や腎臓病がある場合は、ナトリウムやリンなどを調整した療法食への切り替えが推奨されることがあります。甲状腺機能亢進症の場合は、それに適した療法食があります。眼圧が高い場合は、食事内容が直接的な治療になることは少ないですが、関連疾患の管理が重要です。
- 投薬管理: 診断された病気の種類や重症度に応じて、血圧を下げる薬や眼圧を下げる点眼薬などが処方されます。獣医師の指示通りに、忘れずに正確に投薬することが大切です。
- ストレス軽減: 猫は環境の変化や騒音などに敏感で、ストレスが血圧や全体的な健康状態に影響を与えることがあります。落ち着ける寝床の確保、静かな環境作り、遊びを通じた適度な刺激など、ストレスを軽減する工夫を取り入れましょう。
- 定期的な再検査: 治療を開始した場合、その効果判定や病状の進行度を把握するために、定期的な再検査(血圧、眼圧、血液検査など)が必要になります。
まとめ:血圧・眼圧測定で愛猫のQOLを守る
高齢猫の健康診断における血圧測定と眼圧測定は、高血圧や緑内障といった、気づきにくいながらも愛猫の視力や全身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性のある病気を早期に発見するために非常に有効です。これらの検査を定期的に受けることは、早期治療による病気の進行抑制や、視力の維持、そして愛猫のQOLを高く保つために不可欠と言えます。
健康診断の結果を獣医師とよく話し合い、日々の観察やケアに活かすことで、愛する高齢猫との大切な時間をより豊かに過ごせるようになります。迷いや不安がある場合は、遠慮なく獣医師に相談し、愛猫にとって最善のケアプランを共に作り上げていきましょう。